監修者=鳥居先生i
3人のジョンと1人のルネ
筆者には4人の先生がいる。ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann, 1903-1957),ジョン・ナッシュ(John Nash, 1928-2015),ルネ・トム(René Thom, 1923-2002),ジョン・ロールズ(John Rawls, 1921-2002)である。筆者の役目は3人のジョンと1人のルネの理論を継承して具体化することである。
ノイマンは1928年にミニマックス定理を発表した(Zur Theorie der Gessellshaftspiele; Mathematische Annalen)。それにより零和ゲームの最適戦略が確定した。さらにノイマンは1944年にオスカー・モルゲンシュテルン(Oskar Morgenstern)と『ゲーム理論と経済行動』(Theory of Games and Economic Behavior)を著した。
ナッシュは1950年に「n人ゲームの均衡点」(Equilibrium points in N-Person Games; Proceedings
of the National Academy of Sciences)と「交渉問題」(The Bargaining Problem; Econometrica)を発表した。1994年にノーベル経済学賞を受賞し,2001年公開の映画「ビューティフルマインド」のモデルにもなった。
トムはすでに1958年にフィールズ賞を受賞していた。1972年に『構造安定性と形態形成』(Stabilité Structurelle et Morphogénèse)を出版してカタストロフィー理論を始めた。それにより,質的転換の閾値が解明された。
ロールズは1971年に『正義論』(A Theory of Justice)を発表した。初期資本主義の目的は生産力拡大であったが,成熟社会では弱者保護も必要である。ロールズは弱者を保護しながら生産力を拡大する道を示した。
2015年春にナッシュが他界し,筆者の先生はすべていなくなった。だが,彼らの理論は永久に不滅である。

鳥居先生(インドで撮影)
本との出会い
15歳の時,講談社のブルーバックスを愛読した。中でも,モートン・D・デービス『ゲームの理論入門』とE.C.ジーマン,野口広『応用カタストロフィー理論』に影響を受けた。この2冊によって,社会の仕組みも心の仕組みも数式で表せることを確信した。
20歳までに,鈴木光男『ゲーム理論入門』,『ゲームの理論と経済行動』(銀林・橋本・宮本訳),野口広・福田拓生『初等カタストロフィー』を読破した。だが,そこから先に進めなかった。
20歳から27歳までは弁証法を学んだ。山本光雄訳編『初期ギリシア哲学者断片集』,カント『純粋理性批判』,ヘーゲル『大論理学』,エンゲルス『自然の弁証法』,レーニン『哲学ノート』を繰り返し読んだ。
27歳の時,ロールズの『正義論』を読んだ。正義二原理は弱者保護と生産力拡大の両面を考慮していた。格差も平等も駄目であるから,これが社会の正解であると確信した。ベンサムやJ.S.ミルの功利主義とロールズの正義論を1年かけて比較した。
28歳までに先人の理論を習得してインプットを終えた。残りの人生はアウトプットである。筆者の役目は習得した理論を具体的な事象に応用することである。
4つの源泉と2つの構成部分
本書の源泉は3人のジョンと1人のルネである。構成部分は社会の仕組みと心の仕組みである。
「数学ができる人は理系,できない人は文系」という風潮は認めない。数学の専門家である筆者が社会の仕組みと心の仕組みを解明して「文系は数学不要」という考えを打破する。
社会の仕組みは「第2章の1 社会の正解」と「第2章の2 これからの教育」で述べた。
第3章は心の仕組みである。「量から質への転化」「協力と裏切りの閾値」「愛情と憎しみの閾値」「現実主義と未来思考の閾値」を数式で展開した。上巻には収まらず,大半を下巻に回した。
導入として,「第1章 正解の多様性」をおいた。「付録 数学的決定」で応用例を示した。
筆者は何事もひと汽車遅れる。皆がすぐ実践することでも分析して体系化しなければ気がすまない。皆が忘れた頃に体系が完成する。
最後に乗って最後に降りるから混雑を知らない。しかも,努力は必ず報われる。第3章第1節の最後にそれを示した。
先生の先生は4人




ジョン・フォン・ノイマン (John von Neumann) 1926年にミニマックス定理を発表、1928年に論文。人類史上最強頭脳。1903-57。
ジョン・ナッシュ (John Nash) 2大業績(非協力ゲームの均衡解、交渉ゲームの解)は1950年。写真=MIT Museum。1928-2015。
ルネ・トム (René Thom) 1968年に『構造安定性と形態形成の理論』(Stabilité structurelle et Morphogenèse)。1923-2002。
ジョン・ロールズ (John Rawls) ハーヴァード大学教授。1971年に『正義論』(A Theory of Justice)を発表。1921-2002。
15歳の時、行けると思った。28歳で世界の最先端を見た。そこから折り返して帰路についた。長い長い帰路についた。「死ぬ権利」は、すべてを成し遂げた時に得るもの。「死ぬ権利」を得て死ぬことを「成仏」という