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文科省は福島原発事故後、それまで200mSvとしていた閾(しきい)値を100mSvに引き下げた。閾値以下の低放射線は安全か危険か?意見は分かれている。
閾値あり説
福島事故のあった11年、ウェード・アリソン『放射能と理性』、T.D.ラッキー『放射能を怖がるな!』、服部禎男『「放射能は怖い」のウソ』が出版された。彼らは閾値以下の低線量放射線は安全であるとしている。
アリソン『放射能と理性』は「月100mSv、生涯5000mSv以下は問題がない」と言う。広島と長崎の原爆については①日本への地上侵攻を回避させ、膨大な人的損害を防いだ、②新しい物理学的発見もあり、科学技術分野の事業としても勝利である―と言う。
ラッキーは80年にホルミシス説を発表した。それによれば、①閾値以下の放射線は健康に良い。②年100mSvは健康に最適である。放射線ホルミシス』第2版の邦訳は従前からあったが、福島事故後には『放射能を怖がるな!』の邦訳も出た。
服部『「放射能は怖い」のウソ』は「DNAは壊れても修復されるから大丈夫である」と言う。根拠として、①ポリコープ(米)とファイネンデーゲン(独)「1つの細胞が1日100万件も修復している」、②チュビアーナ(仏)「毎時10mSvまでなら細胞が傷ついても完全に修復する」、③ヴィレンチック(米)「毎時300mSvまでは修復可能。毎時1000mSvではがん細胞の増殖を強く抑え込む」―を引用する。
LNT説
小出裕章らの京大熊取六人衆や、広島・長崎の放射線影響研究所(日米両政府が運営する公益財団法人)は直線閾値なし(LNT)説に立つ。彼らは低線量放射線でも健康被害の発生確率と線量は比例すると考える。
LNT説は77年に国際放射線防護委員会(ICRP)が発表し、05年に米国科学アカデミーの電離放射線の生物学的影響に関する第7報告(BEIRⅦ)が支持した。
LNT説より厳しい説もある。ペトカウ(加)は72年、長時間の低線量放射線は短時間の高線量放射線よりも細胞膜を激しく破壊すると発表した。欧州緑の党が設立した欧州放射線リスク委員会(ECRR)は03年、「ICRPの基準より10倍以上厳しい基準が必要」と勧告した。
確率的影響と確定的影響
1つの細胞につき1日あたり100万個のDNAが損傷され、同数が修復される。2本鎖の1本が切れた場合、残りの1本を参考にして修復する。2本同時に切れた場合、転座や欠失、重複などの変異が起こるが、変異細胞の多くは自殺する。この自殺はアポトーシスとよばれる。
許容範囲(閾値)を超えた場合、修復や死滅は追いつかない。損傷を受けた細胞は損傷を回復しないまま増殖し、何年もかけて がん、白血病、先天異常などを引き起こす。発生確率は損傷を受けた細胞の数に比例する。つまり、放射線量に比例する。これが低線量放射線の確率的影響である。
だが、100mSv以下では急性障害(嘔吐・脱毛・不妊)、白内障、紅斑、精神遅滞の事例がない。つまり、閾値以上は危険で閾値以下は安全である。これが確定的影響である。
今の政府が低線量放射線が安全だと想定し、未来の研究で危険性が確定した場合、その間に被害者が増え続ける。意見が分かれている場合、最悪の事態を想定べきである。
11兆 他に毎年4千億
原発は高い。その費用は電気料金や税金としていずれ国民が負担する。大島堅一(立命館大教授)と大阪市立大の除本理史(大阪市大教授)は次の発表をした(「経営研究」14年8月号)。
今後、再処理など核燃料サイクル関連の積立金=84年までに6.4兆(積立済分を含めれば11兆)、核のごみの最終処分費用の積立金33年までに2.6兆、廃炉積立金の不足額1.2兆、新規制基準への対応1.2兆で計11.4兆かかる。新規制基準への対応費用は判明分が1.2兆である。「独立電源や冷却装置を備えた第二制御室」「主要配管の多重化への対応」の費用はまだ判明していない。
毎年、日本原子力研究開発機構への支出1667億、原発が立地する自治体への交付金1042億、自治体に支払う核燃料税399億、原子力規制委員会の人件費など373億、原発関連の研究開発366億、原子力安全基盤機構への支出201億、原子力防災にかかる費用151億、原発の保険料(50基分)28億、原子力委員会の人件費など2億、計4229億かかる。原発の保険料28億は、福島事故の賠償のためにさらに上がるはずである。
再生可能エネルギーが安い
米企業系調査機関ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)は14年9月、1kWh当たりの発電費用を発表した(共同通信14年9月16日)。太陽光発電16円(日本では35円)、原発15円、石炭火力9.8円、高効率天然ガス火力8.8円、陸上風力8.8円(日本は20円)、小規模水力8.3円、地熱7.0円である(1㌦=107.2円)であった。
福島事故後に安全規制が強化され、建設費や維持管理にかかる人件費などが高騰したこともあるが、地熱、小水力発電、陸上風力などの再生可能エネルギーに比べて高い。廃炉費用、事故対策費用を含めればさらに高い。原発の設備利用率は92%と高く見積もっている。太陽光発電は安価な機器を輸入すれば半額以下になる。
原発信者は経済音痴⤵ 東芝の惨状を見よ!